障害者福祉事業 新着情報
重度の仲間の「労働」を語り合いましょう
2021-03-26
重度の障害のある人たちの「労働」を、
作業所の職員と検討するために参考資料を探していたら、
丸山啓史さん(2010,京都教育大)が
『見方が変われば願いが見える』
(2009, 赤木和重・社会福祉法人コスモス編著)にある、
森田(飛松)・山下さんの文を紹介しているのを目にしました。
丸山さんは、
「『手応えや人とのつながり』、『やりがい』を重視しており、
発達保障を目指す取り組みでありながらも、
狭義の『発達』を直接的に追求するのとは異なるとらえ方がうかがえる」
と評価しています。
さっそく『見方が変われば願いが見える』を再読してみました。
「重度の身体障害と知的障害、難聴もある重複障害者」である
「哲也さん」にとって労働って何だろう?と問いかけ、
本人が好きな「器から器への物の出し入れ」を手がかりにして、
アルミ缶リサイクル作業の工程に取り入れると
「『やった〜』と言うかのような
達成感を表現するような姿を見せてくれるようになりました。」
あえて注目したいのは、
「手応えや人とのつながり」と「やりがい」は
「哲也さん」だけでなく、
職員のものでもあることです。
そのことが、さらなる「哲也さん」への支援の試行錯誤や、
職員間で仲間の労働についての論議も
「果てしなく続」けることにもなりました。
「哲也さんから学んだこと」として、
以下のように貴重な視点がまとめられています。
今ある仕事に仲間を合わせるのではない。
発達要求を探りながら、
手ごたえや人のつながりを感じられるように、
その人に合った作業を模索する。
それが実践の第一歩だろうと思います。
また、作業所で働く仲間たちにとって、
仕事以外の日課や取り組みの一つひとつが
働くために不可欠な要素になります。
障害の重い仲間たちにとって作業所での「労働」は
単に働いて、
より生産性や技術をあげることだけが目的ではありません。
その先に一緒に作業している仲間がいる。
その人たちは
時に怒り、時に譲らず、時に大いに笑う。
そんな喜怒哀楽に富んだ集団と一緒に過ごす時間の中で、
人との心地良い関りを築き、
「~したい」思いや生活経験を広げていく。
それがまた、次の労働意欲や働く力、
さまざまな生きる力を育んでいく。
その人らしい「労働」のあり方とよりよく生きることは
分かちがたく結びついているのです。
そしてまた、
ある人の「労働」は、時にその家族の願いや励みになったり、
支援者の側を成長させたり、
その人だけでなく周りを変え、互いに影響しあいます。
そういうことも全部含めたものが、
私たちが考えている「労働」の意味なのです。
森田芙美子・山下寛(2009)
「働くことは豊かに生きること
― 障害の重い仲間や一般就労をめざす仲間の姿に学ぶ ―」より
この数年、
作業所では下請けなどの仕事が少なくなっている班がいくつもありますが、
コロナ禍でさらに仕事がなくなっていると聞かされます。
貴重な仕事が入ったら、納期までにまちがいなく仕上げるために、
職員主体の作業になっているところもあります。
そこには、仲間の工賃保障という使命感が
職員の背中にかかっているのが分かります。
また、従来から一連の作業をパート化し、
各パートを職員が仲間を順に組み込みながら進めるため
他の仲間は待ちになってしまう現場もあります。
仲間は受け身になり、
「やりがい」や「つながり」が感じにくいと思わされます。
4月から新年度が始まります。
この機会に、
今回紹介させてもらった先行の実践に学び、
班の職員集団で仲間の「労働」について語り合ってください。
そこから出てきた問題や課題に、
研究所の私たちもつき合わせていただければありがたいです。
コスモス研究所 中村清隆
(文献)
●森田芙美子・山下寛(2009)
「働くことは豊かに生きること
― 障害の重い仲間や一般就労をめざす仲間の姿に学ぶ ―」
(赤木和重・社会福祉法人コスモス編著,
「見方が変われば願いが見える」クリエイツかもがわ)
●丸山啓史(2010)
「人間発達と『労働生活の質』
― 『障害者に仕事を合わせる』の意味と意義 ―」
(障害者問題研究,第38巻第2号,全国障害者問題研究会)